川喜田敦子(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 国際交流センター長)

 

2024年1月16日(火)、17日(水)にかけて、第三回小和田記念講座がライデン大学にて開催(ハイブリッド方式)された。2022年5月の第一回講座(Emotions in International Politics)(ライデン大学にて開催)、2023年3月の第二回講座(Memory and Reconciliation)(東京大学駒場キャンパスにて開催)に続く第三回目の講座は、“Human rights and Global Diversity”をテーマに行われた。

プログラム初日は、歴史あるライデン大学の講堂にてオープニングセッションが開催された。ライデン大学、東京大学大学院総合文化研究科の代表者による挨拶、国際法と国際政治のインターフェースという小和田記念講座の基本的関心の下で、人類の歴史における人権観念の発達について、古代、中世、ウェストファリア体制、植民地主義の時代、国連創設を経て今日にいたるまでを概観した小和田先生のIntroductory Remarksに続き、principal speakerと呼ばれる基調講演者を務めたのはオビオラ・オカフォー氏であった。“Global Diversity and the Living International Human Rights Law”と題されたオカフォー氏の講演は、多様化する世界のなかで国際法をどのように変えていく必要があるか、また変えていくことができるかについて、第三世界を意識した視点から論じるものであり、この講演に対して、東京大学よりキハラハント愛教授、ライデン大学よりステイシー・リンクス氏がディスカッサントとして登壇した。ここでは、グローバルな多様性と同時にひとつの地域内における多様性にも着目する必要性、国家を中心とした思考に「人間」という要素を織り込むことの重要性、第三世界を含む今日世界の多様化に立脚した新たな思考と実践の必要性などの論点が提出され、オープニングセッションでの議論は、その後の学生、教員のセッションでも繰り返し参照されることになった。

初日の午後には、学生によるディベートセッションが行われた。小和田記念講座のウェブサイトに小和田先生ご自身がお書きになっているように、文化圏という意味でも専門分野という意味でもバックグラウンドの異なる者同士の「討議(debate)」が小和田記念講座の核である。互いに意見を述べ合い、聞きあうことを通じて目的とされるのは、結論を出すことではなく、討議を通じてより深く明晰な思考を得ることである。そうした経験を重ねた学生を国際的な舞台に送り出していくことが小和田記念講座の重要な目的である。今回の参加学生は、全体にライデン側の参加者よりも若く、経験も不足していたにもかかわらず議論によく貢献し、その積極的な参加態度は頼もしさを感じさせるものであった。

プログラム二日目の午前中には教員のラウンドテーブルが行われ、東京大学より登壇した逆井聡人准教授は、“The Presence of the Korean Minority in the History of Japanese Modern Literature”というテーマで不可視的なマイノリティの人権について論じた。” A new sense of possible legal commitments? Environmental rights and Anthropocene legalities in more-than-human worlds”というテーマで行われた同じく東京大学のイザベル・ジロドウ准教授の講演は、人権をどこまで拡張できるかについて考えさせられるものであった。ライデン大学から登壇したヘレン・ダフィー教授は、前日のオープニングセッションでの基調講演の内容に言及しながら問題提起を行い、その後、オカフォー氏、小和田先生からの発言が続き、学生の質問も出たことで、改めて全体を振り返りつつ活発な意見交換が行われる契機となった。引き続き、午後には、PhDセッションが行われ、ディベートセッションに参加した学生の一部が第三回小和田記念講座の問題意識を踏まえて研究報告を行った。

第三回小和田記念講座のプログラムと参加者についての詳細は、ライデン大学のウェブサイト上に設けられた以下の特設ページよりご確認いただくことができる。なお、このページでは、初日のオープニングセレモニーの録画をご視聴いただくことも可能になっている。

https://www.universiteitleiden.nl/en/events/2024/01/global-diversity-and-the-living-international-human-rights-law

東京大学大学院総合文化研究科のある駒場キャンパスは、「リベラルアーツ」を掲げ、境界を横断して複数の領域を往還する思考を大事にしている。国際法と国際政治の対話のなかで、乖離するふたつのディシプリンをいかに調整しながら、よき世界を作り上げていくことができるかという小和田記念講座の基軸となる問題意識は、複数の領域を横断し、往還するという「リベラルアーツ」の理念と共鳴するものである。

教員はもとより、学生もまた、専門性を追究する中でも、常により広い視野に立って世界全体を見渡す機会を必要としている。第一回、第二回講座に引き続き、第三回講座もまたそうした学際的コミュニケーションのための貴重な機会となった。小和田記念講座を支えてくださっている学内外の皆さまに心より御礼を申し上げたい。