川喜田 敦子(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 国際交流センター長)
2024年11月2日(土)、3日(日・祝)にかけて、第4回小和田記念講座が東京大学駒場キャンパスにて開催(ハイブリッド方式)された。2022年5月の第1回講座(Emotions in International Politics)(ライデン大学にて開催)、2023年3月の第2回講座(Memory and Reconciliation)(東京大学駒場キャンパスにて開催)、2024年1月の第3回講座(Human Rights and Global Diversity)(ライデン大学にて開催)に続き、第4回目となる今回は、“Sustaining Peace: Peace Operations, Prevention and Reaction”というタイトルで行われた。本報告書は、この第4回講座の主要な講演、参加記等を収録したものである。
第4回講座について簡単に振り返っておきたい。プログラム初日は、東京大学駒場キャンパスの18号館ホールにてオープニングセレモニーが開催された。第4回講座のホストを務める東京大学大学院総合文化研究科より真船文隆研究科長の挨拶に続き、ライデン大学から今回の講座のために来日されたヘスター・バイル総長にご挨拶いただいた。
小和田記念講座では、毎回の講座の開始にあたり、議論の枠組みを設定するためのIntroductory Remarksを小和田恆先生にお願いすることになっている。“Sustaining Peace ─ Peace Operations: Possibilities and Limitations”というタイトルで本報告書に収録されているIntroductory Remarksは、国際法と国際政治のインターフェースという小和田記念講座の基本的関心の下で国際の平和の維持について考えるにあたり、国連憲章の下での平和活動という規範的な枠組みが試行錯誤のなかでこれまでいかに変容しつつ展開してきたかを概観するものとなった。
小和田先生のIntroductory Remarksに続き、principal speakerと呼ばれる基調講演者を務めたのは遠藤貢教授(東京大学)であった。“Peace Operations in Africa: Current Practices and Challenges” と題された遠藤先生の講演では、近年、アフリカにおける紛争形態が暴力的過激主義(Violent Extremism : VE)と称される活動としてとらえられるようになったこと、こうした紛争に対するアフリカ連合の平和活動も、暴力集団の根絶を目的とする「安定化」とよばれる活動に変化してきたことが最初に指摘された。そのうえで、「人間の安全保障」の観点から見れば、VEに関与している人々の現実を正確に認識せず、対症療法的に対応する活動には限界があること、持続する「平和」を実現するためにはよりローカルな視座を織り込んだ対応が必要であることが論じられた。
この講演に対して、ライデン大学よりヤン・アールト・スホルテ教授、慶應義塾大学より杉木明子教授がディスカッサントとして登壇した。スホルテ教授は、紛争解決における国際組織、地域機構、国家、ローカルという多層のアクターの協力が重要であること、そのような協力関係の構築が国際法をめぐるわれわれの理解に及ぼしうる影響を考える必要があることなどを指摘された。また、杉木教授からは、ローカルな視座に根差したボトムアップ・アプローチの陥りがちな陥穽、平和研究において紛争地域のみならず平和を維持している地域に注目することの必要性、紛争地域の平和構築に外部者が関わる際に自らの立場性を明確に認識することの重要性などの論点が提出された。オープニングセッションでの議論は、その後の学生セッションでも繰り返し参照されることになった。
二日目の午前ならびに午後の第一セッションでは、学生によるディベートが行われた。小和田記念講座では、文化圏という意味でも専門分野という意味でもバックグラウンドの異なる学生たちに、「他流試合」ともいうべき「討議(debate)」の場を提供することが重要な目的のひとつとなっている。第4回講座では、これまでの3回の講座よりも意識的に長い時間を学生のディベートセッションに割いた。通算4時間に及ぶ討議のなかで、学生たちは、アフリカにおける平和活動、国際の平和の実現のために国連が果たすべき役割などについて様々な角度から議論を深めた。小和田先生、ライデン大学や日本側の教員からのコメントや問いかけもときに織り交ぜながら、参加者が疲労困憊するほどに濃密な時間となった。
引き続き、午後の第二セッションでは、PhDセッションが行われ、ディベートセッションに参加した学生をはじめとする東京大学、ライデン大学の学生、ポスドクらが第4回講座の問題意識を踏まえて研究報告を行った。
第4回講座には、小和田記念講座としては初めての試みとして、早稲田大学の小山淑子先生、慶應義塾大学の杉木明子先生のご協力を得て、早稲田大学より9名、慶應義塾大学より3名の学生を招き、東京大学の学生5名と共同で3回の準備セミナーを実施したうえで、当日の議論に臨んだ。東京近郊の三大学からの意欲ある学生らが互いに刺激を与えあいながらともに学ぶ姿は、バックグラウンドの異なる者どうしの「討議(debate)」という小和田記念講座の理念が実現したことを見る者に深く印象づけるものだった。小和田記念講座での討議を通じて、今日の国際的な問題に対して深く明晰な思考を得ようとする経験を重ねたことが、学生らがいずれ国際的な舞台に出ていくにあたり重要な財産となることを願ってやまない。第1回から第3回講座の成果のうえに、第4回講座が大きな成果を挙げたことを大変喜ばしく思いつつ、小和田記念講座を支えてくださっている学内外の皆さまに心より御礼を申し上げたい。
次回の第5回小和田記念講座は、ライデン大学にて2025年10月14日(火)、15日(水)に開催される見通しとなっている。第5回講座のテーマについては、詳細は今後の調整を待つこととなるが、国際法と国際政治における正義の問題が焦点となることが見込まれている。皆さまのご支援の下、充実した成果を得られるよう、関係者一同、一層の努力を続けてまいりたいと考えている。